非行少年少女の更生と社会復帰への園芸療法の導入効果

1.はじめに

現在の非行少年少女への更生方法は、専門家によるカウンセリングが主であるが、法に触れた少年少女の経過データが調査されてから、裁判所の判定によって少年院送りか民間に3か月間の一時委託する措置に分けられている。

 

また、再犯であるか否かの判断によって保護観察処分が言い渡されており、20歳までは処分から解放されない非行少年少女が多いようである。しかし、非行少年少女が更生して社会に復帰するためには、カウンセリングだけでは不十分であり、何らかの職業訓練が必要であると考えられている。

 

従って、NPO法人日本園芸療法士協会では、更生方法としての専門家によるカウンセリングだけでなく、社会復帰に必要となる職業訓練を実施するため、園芸療法士の指導によって作業行為での行動観察ができる園芸療法を導入し、その効果を確かめることにした。

2.非行少年少女の更生と園芸療法導入の接点

欧米では良く知られている園芸療法とは何かと問われれば、人々が植物を園芸作業で育て気づかせることで癒し効果が期待されるので、専門家の指導によって行う一連の園芸による作業行為を通じて、心身の五感を刺激して目的を達するための作業療法であると言えよう。

 

従って、法に触れる行為を経験した非行少年少女については、人間社会を否定した行動が多く見られることから、植物に触れさせる環境を与える園芸療法を導入することによって、植物と言う人間でない命と向き合うことが必要なのである。また、植物は「動かない」「しゃべらない」「秘密を守る」「いつも側にいてくれる」ので、法に触れた少年少女にとっては心を癒すことに役立ち、植物と向き合った時の不安な表情が消失していく大事な接点にもなると考えられよう。

 

この園芸療法の作業行為の反復によって、心の意欲向上、身体の行動回復、うつ的表情の解消、心の開放性など、四つの特徴が現れることになる。

 

従って、園芸療法士の指導により非行少年少女が園芸療法の作業を行うことで、人間社会との繋がりを回復して更生させることができると期待されている。NPO法人日本園芸療法士協会は、2000年頃より心身障がい者を対象とする園芸療法を行っており、専門家としての園芸療法士を育成しているので、非行少年少女の更生にも役立つと考えている。

 

また、心身障がい者の職業訓練も同時に行って効果を挙げており、非行少年少女にも同様な職業訓練を適用することで、社会への復帰に役立つと考えたのである。

 

現在、筆者の研究成果をまとめ平成25年には特許第5355104号園芸療法を用いた行動観察制御システムを取得しており、多くの関係各位に利用して頂ければと期待している。

3.非行少年少女の実態

筆者が、初めて裁判所の法廷で会った非行少年少女は15歳から19歳であったが、髪の毛を顔の半分までたらしており、目が隠れて見えないほどであった。

 

履物はサンダルが多く裸足のままで、冬でも靴下を履いていない状況なのである。また、サンダルの底には穴が開いていており、その裏に道路の土がついたままで、哀れな状況であったことを覚えている。さらに、少年少女の手に触ると冷たく、身体は菓子や好きなものしか食べないためか、十分に栄養がとれておらず痩せ細っていたことを覚えている。

 

裁判所の法廷では、少年少女の横に付き添う親は一人あるいはいない場合が多く、両親が二人で付き添うケースは稀であった。また、一時委託の更生段階で本人に進路を問うと、働きたい希望が90%を占めており、学校への復帰について聞いてみると、非行行動があったので受け入れてくれないようである。

 

そのためか、学校の担任が心配して裁判所の法廷に出頭する生徒は一人もいない状況であり、警察に補導あるいは検挙された時点で学校との関わりを消失していたと言えよう。従って、法に触れ非行少年少女となった時点から、厳しい周りの人間模様を把握して孤立していたと思うので、その解消が社会復帰への重要な課題であると考えている。

4.家庭と非行少年少女との関係

非行少年少女は、もの心が付き始めた3歳の頃から満足に食事が与えられておらず、朝食から菓子を食べるなど、自分で冷蔵庫を開けて適当に食事をするような、侘しい食事の習慣になっていたと思われる。

 

従って、親が調理して朝昼夕の3食を与えることにより、規則的な食習慣を身につけさせることなど、非行少年少女にとって難しかったのが現状であろう。当然のことであるが、衣食足って礼節を知るとの譬えどおり、まず正しい食生活を送らせることが、非行少年少女の更生に必要な事項であると言えよう。

 

家庭における言語の大切さを考えると、非行少年少女の両親による怒った顔から発せられる言葉の実態を知り、ぶっきらぼうな単語が多く事情の説明もない会話が多いことが分かれば、多くの問題点があることに気付くであろう。

 

従って、その両親には我が子を受け入れる姿はあまり見られないので、残念ではあるが対応策が見当たらないかもしれない。その結果として、裁判所内で出会う非行少年少女に家庭からの衣服などの差し入れもなく、極めて寂しい限りであると思っている。

5.園芸療法を導入した3か月間の更生と社会復帰

非行少年少女の更生と社会に復帰させるためのプログラムについては、法に触れた少年少女の経緯と家庭の環境を調べ、少年少女自身を目視したうえで判断することになろう。

 

まず、園芸療法士の指導による作業療法を行って、植物の癒し効果による心身の回復を期待し、引き続いて社会復帰するための職業リハビリテーションを行うことにしている。

 

(更生と社会復帰へのプログラムの内容)
1) 植物環境との触れ合い
園芸療法士の指導により植物トンネルを毎日歩かせて、その大切さを理解させる。

 

2) 植物により五感の刺激を与える園芸療法
a. 大きな木に抱き付いて言葉を吐き出させて、受け入れの行為をさせることによって、心理的な安定を得ることができる。
b. 自分の心を洗い流す行為として、まず心を土に変換させ手ですくいながら、自分の心を癒すことに専念させる。
c. 人間の命の大切さを植物に触って知るために、植物を利用する園芸療法による作業療法を導入して、その効果を確かめる。

 

3) 社会復帰に必要な職業訓練リハビリテーション
a. 「取る行為」から約束のある社会を知るために、職業訓練に必要な納品書、請求書、領収書などの書き方を練習する。
b. 100マス計算をすることで、不登校のため理解不足となった数の認識を回復させ、必要な能力をつけさせる。
c. 職業七大用語を唱えることで、社会復帰を容易にする。すなわち、「いらっしゃいませ」「はいかしこまりました」「少々お待ちくださいませ」「失礼いたしました」「申し訳ございません」「ありがとうございます」「またお越しくださいませ」を繰り返すことで、職業訓練の効果が期待される。
d. 就労中の身だしなみを整える基準を知ることが、社会復帰への条件であると理解させて、下図を参照して自分で必要なことを行わせる。

 

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4) 店舗での就労による職業訓練リハビリテーション
a. 最低賃金786円/時にて、毎日3時間の勤務を行わせる。
b. 就労日は月曜日から金曜日までとし、土曜日と日曜日は休日とする。
c. 園芸療法士協会が運営する札幌市内の17店舗の何れかに配属するが、園芸療法士の指導によって配属される店舗が決まる。

 

5) 心身障がい者との助け合い就労によるリハビリテーション
a. 心身障がい者を助けながら仕事をさせることで、互いの立場を尊重することの大切さを知り、社会復帰への必要事項を体験させる。
b. 身体動作を機敏にさせることの大切さを知り、そのための努力が必要なことを体験させて、自分にも限界のあることを理解させる。

 

6) 日常生活に必要な指導の実施
a. 自立準備ホームで生活する目的を理解して、社会に復帰するまで約3か月間入居して生活リズムを整え、安定した社会生活を送る上での知識能力を身につけさせる。
ただし、一般の日常生活に比べて、必要な規制があることを認識して頂く。
b. ゴミの分別は重要な事項であるから、必要な指導のもとで燃える・燃えない・プラスチックなどに分けさせる。
c. 自立準備ホームの部屋の片づけを体験させて、日常生活に必要な整理・整頓・掃除などの習慣をつけさせる。
d. 正しい食生活の習慣を維持させるため、決められた時刻に提供された朝食・昼食・夕食をとる。
e. 夕方の門限を6時とし、必ず守って頂く。事情があって遅くなる場合には、事前に理由を述べて許可を得ておく必要がある。
f. 衣類の取り扱いについては、入居時に必需品(下着・靴下・上着・ズボンなど)を支給するが、その後に必要となった衣類は、自分の受けとった給料で購入する。
g. 禁酒・禁煙を厳守させる必要がある。もし、発覚した時には退所させることがあるので、予め十分に注意しておきたい。
h. 隣近所の人々に挨拶をする。この習慣を付けておくことが、社会復帰への大切な事項なであると知らせておく。
i. 友人等を自立準備ホームの部屋に入れない。更生と社会復帰の途上であるから、必要のない生活環境に戻らないよう努力しておきたい。

 

7) 非行少年少女の日常生活での対応
a. トイレに行く回数が多い場合には、性病感染が疑われるので病院に連れて行き、診察を受けさせる。
b. 10時・3時の決まった時刻におやつを与えることで、更生し社会に復帰した後の生活に慣れさせる。
c. 衣服などは、すべて中古の寄贈品ではなく新品を与えることで、生活習慣を改めさせるよう配慮している。
d. 要望があってもパソコンは与えず、読書本を与えることにするが、マンガ本などは可であっても、週間雑誌は問題点が多いので認めていない。
e. テレビを見たい場合には、自分の受け取った給料で買わせることになるが、消費電力の必要であることを理解しておく。

 

8) 非行少年少女の3か月間の更生と社会復帰の経過

 

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非行少年少女を受託して3ヶ月間で更正させ社会に復帰させる対応は、大変難しいことであると考えている。しかし、受託した少年少女のように若くして人間社会を否定して、法に触れる行為を経験したことにより、社会での限界に達して裁判を受けることになったので、更生と社会復帰に必要となるプログラムの提供が望まれていると言えよう。

 

従って、NPO法人日本園芸療法士協会の実施する園芸療法と出会うことで、植物を利用する場が与えられて更生と社会復帰をする姿を見出すことができればと思っている。この更生と社会復帰のプログラムにより、少年少女が人間社会で命を与えられ最初に出会ったのが母、そして父であることを知り、その原点を受け入れて非行の目をひも解くことによって、人間社会の一員として復帰して欲しいと思っているからである。さらに、再び社会において重要な役目を果たし、少年少女の希望が叶えられる立場になることも期待しておきたい。

 

上記の3ヶ月間の更生と社会復帰への経過は、園芸療法を取り入れて人間社会に復帰して行く様子を表したものであり、とくに最後に示してある顔の表情・首の角度等の目視による判定は、心身障がい者への対応にも採用されており、心の癒し効果の指針としても利用されている。勿論、心身障がいのない少年少女であるから、同じような効果への指針にならないとしても、非行から抜け出すことができた心の安心を判定するため、有効な手段になるのではと考えている。

 

6.園芸療法による更生と社会復帰の結果

園芸療法を導入して、非行少年少女の更生と社会復帰を行った結果として、復帰後も再犯せずに社会復帰することができたと聞いている。ただし、その後で20歳以上となった場合の犯罪歴については報告されていないので、長期に亘る園芸療法の導入効果については不明なのである。

 

このように、多感な時期での少年少女による人間社会での非行という失態は、現在の情報化社会の知恵によりコントロールできるであろうか、否定的であると言うほかないであろう。従って、長期に亘り検討を重ねてきた多くの知恵を結集して、少年少女への対応をする必要があると考えている。

 

よく知られているように、長い時間を掛けて命を育てきた土壌や植物たちと接することで、人間以外の多くの命から学ぶことが大切であり、非行少年少女に対して更生と社会復帰をさせる過程においても、必要な事柄ではないかと思っている。

 

また、植物を育てるように希望の種を手に握り締めながら、非行少年少女を信じて社会に復帰させる姿は、尊い存在であると考えておきたい。多くの人々に知られていないとしても、これまでのNPO法人日本園芸療法士協会による努力が実を結び、法に触れる経験をした非行少年少女の更生と社会復帰に役立っているので、次頁に添付した表を参照して頂ければ幸いである。

7.まとめ

 筆者の所属するNPO法人日本園芸療法士協会では、以前から心身障がい者の園芸療法によるリハビリテーションを行って、心身障がいの軽減と社会復帰への職業訓練に関して多くの経験を積むことができた。従って、非行少年少女についても更生と社会復帰のための園芸療法の導入効果を確かめておけば、その手法を応用することで正常な社会生活を送らせることが可能になると考えている。

 

勿論、心身に障がいのある人々に比べて難しい非行少年少女への対応であるから、慎重に関係者の意見を伺いながら必要なリハビリテーションを行うことにしたが、末尾に添付した少年少女の受託記録にあるような結果が得られたので、その経過も含めて発表させて頂くことにした。

 

 現在のところ、他に例がないことから問題点の把握に限りがあるとしても、現在のように非行少年少女の更生方法を専門家によるカウンセリングのみに限定することなく、園芸療法を導入して効果を挙げることも必要ではないかと思っている。言い換えてみると、心身障がい者の就労支援についても同様な状況であることを知り、現状ではNPO法人日本園芸療法士協会による就労支援数が全国一となっていることと、その就労実績も他を抜いていることを理解するならば、園芸療法の導入効果を知って頂けるであろう。

 

このことは、単純な手法にこだわることなく植物の癒し効果を考慮して、更生と社会復帰あるいは就労支援を行うなど、複合的な支援を考える必要のあることを示していると思う。

 

 勿論、園芸療法の導入のみに限定することなく、他の手法を開発し導入することによって、非行少年少女の更生と社会復帰に役立つことを期待しているので、今後の各分野における努力が望まれていると言えよう。さらに可能ならば、情報化社会の研究成果を生かして心の安らぎや不安な表情を定量的に表すなど、心身障がいの軽減や非行少年少女の更生効果を判断するための手法を応用することで、NPO法人日本園芸療法士協会が導入している園芸療法の効果をさらに向上できればと考えている。

 

難しい事柄が多いとは思うが、今後の重要な課題であることから、関係各位の支援と協力をお願いしておきたい。

 

 

NPO法人日本園芸療法士協会 理事長
米国南カリフォルニア大学 Ph.D 瀬山 和子

 

 

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